スィートケーキ?
水色真珠
朝から厨房に篭って料理の本を見ながら
クラヴィスはケーキらしきものを作ろうとしていた。
というのも、各人が誕生日の折に本人以外の者が
皆で役目を分担し用意し祝ってやるのことになっていたのだが
割り当て方法がくじ引きであったため
リュミエールの誕生日のケーキを作る役がクラヴィスに回ってきてしまったのだ。
文句はいわないというのが守護聖の間で暗黙の了解として伝承されてきているので
誰も何も言わなかったが、皆が顔に不安そうな色を浮かべていた。
チョコでないのに黒いケーキで黒いロウソクがたっているのを
想像しない者はいなかったからだ。
クラヴィスは長い髪をしばり、動きにくいローブではなくシャツとスラックスに着替え
執事に押し付けられたエプロンをつけ本と睨めっこをしていた。
「一応やる気はあるみたいですね。」
心配して双眼鏡で覗いていたランディが傍らのオスカーに言うと
オスカーは厳しい顔をして告げた。
「油断するな!敵は何をしでかすかわからん。
偵察を続けて何かあったら、すぐに報告するんだ!」
実のところ、その他の準備は、ほぼ終わっていた。
料理はマルセルとオリヴィエがリュミエールが好むような
淡白で彩りのキレイなものを仕上げていたし
会場の飾りつけも当のオスカーとランディの担当で
派手と素朴が相殺し合って無難なものが出来ていた。
ゼフェルがリュミエールの好みを調べてルヴァが選んだプレゼントも
ラッピング済みで用意されている。
その贈り物のカードを書くのにジュリアスより適任者はいないだろう。
こうしてほとんどの準備が整った中で唯一の不安材料は
クラヴィスが作っているケーキなのだ。
「どう?」
オリヴィエがマルセルを連れてやって来ると
ほぼ全員がクラヴィスのケーキ作り監視のために集まったことになる。
草木で巧妙にカモフラージュされた場所は設備も整い
すでに監視小屋といった風情で、お茶くらいなら沸かして飲める設備さえある。
新しく来たオリヴィエとマルセルにルヴァがお茶を出した時ランディが声をあげた。
「材料を冷蔵庫から出しています!」
ジュリアスの額の青筋が震える。
「まだ、とりかからないのか!私が一言いってやる!」
しかたなしに全員でジュリアスを取り押さえた。
口出し無用、それも伝承されてきているルールなのだ。
クラヴィスは分量を計ると、それを机の上にひとつひとつ並べていった。
正確は正確だが、まどろっこしい行動に監視小屋では苛立ちが募る。
やがて、大きなボールを出してきたクラヴィスはカスカスと突きながら
だるそうに材料を混ぜていく。
卵白を泡立てるのも一生泡だたないのではないかと思うくらい遅い
ルヴァさえ、眠気を覚えて寝込んでしまったくらいだから
他の人間が、その例に漏れるわけがない。
監視小屋が昼寝に静まりかえった頃、やっとクラヴィスのケーキはオーブンへ入った。
タイマーをセットしてクラヴィスがテラスで腰をかけていると
小さな泣き声が聞こえた。
館の裏の道を女王候補が歩いている。
手にはリボンのかかった大きな箱、真っ赤な目をしてうつむいて歩いている。
「どうしたのだ?」
クラヴィスに言わせれば声をかけたのは、ほんの気まぐれであった。
赤く潤んだ目がクラヴィスを見上げる。
「今日のリュミエール様のお誕生日にケーキを焼いたんですけど失敗しちゃって、
御館の前まで行ったんですけれど、どうしてもお渡しできなくって帰ってきちゃたんです…。」
箱を開けさせるとペッタンコで膨らんでいないケーキがあった。
クラヴィスは、ちょうど焼けた自分の作ったケーキを詰めると女王候補に手渡した。
「ふ…あれには、いつも世話になっているからな…」
女王候補は目を真ん丸くして、何度も頭を下げてお礼を言って帰っていった。
クラヴィスは女王候補を見送ると、また暇をつぶすようにケーキの本を読み始めた。
見張り小屋の一行が目を覚ましたのはゼフェルの目覚まし時計のおかげだった。
「ランディ!ケーキはどうだ?」
オスカーに言われて慌ててランディが双眼鏡で覗く。
「真っ暗でみえません!」
夕方とはいえ日はあるのにと皆が不思議に思った時、
ランディは双眼鏡の前にクラヴィスが立っているのに気がついた。
「何をしている…」
クラヴィスの私邸の庭に見張り小屋を作って篭っているのだから、もっともな質問だ。
「えーと、ちょっと通りかかったんで…」
ランディのあんまりな言い訳に全員頭を抱えたが、当のクラヴィスは
答えを期待していなかったのか大きな箱を抱えて宮殿へ向かって歩き出していた。
「ね…どんなケーキか確認出来なかったわね。」
オリヴィエがポソッといった言葉に不安の波紋が広がっていった。
宮殿につくと飾り立てられた大広間に
オリヴィエとマルセルの作った料理が並べられている最中だった。
クラヴィスがケーキの箱をプレゼントの箱と並べて置くと
リュミエールの到着の知らせがあった。
水色に輝く髪をゆるくまとめて、淡い水色を帯びた真珠色のローブを着て
柔らかく微笑んでいる。纏う空気さえも柔らかく優しくみえる。
ひとりひとりにパーティの御礼を言っていくが、
皆の目線は開けられようとするケーキの箱にあった。
雰囲気ぶち壊しのおどろおどろしいケーキではありませんように祈るように見守る面々。
「あぁ…これは…」
驚いたようなリュミエールの声に一同は凍りついた。
開けられた箱にはスポンジケーキにしては妙に薄いものが入っていた。
全員が慌てて覗き込むと、そこには色とりどりの果物の薄切りのタルトに
カモミールの生花があしらわれた見事なケーキがあった。
「ね…クラヴィス様、スポンジケーキ焼いてたよね?」
マルセルが隣のランディに耳打ちするとランディはコクコク頷く。
「なぜタルトに化けたんだ?」オスカーも首をひねる。
「あ…私はわかったよん。スポンジ膨らまなかったんだよ。
だから、それを台にして焼きなおしたんだ。
ケーキなんか作ったことなさそうだったのに良く気がついたわね。」
なるほどと一同は納得したが影にあった小さな事件は女王候補を通して
リュミエールだけには伝わっていた。
「クラヴィス様、アンジェリークから話は聞きました。どうもありがとうございます。」
恭しく礼を言うリュミエールにクラヴィスは珍しく薄く笑って答えた。
「いや、なかなか面白かった。今度もケーキを作る役目が回ってくると楽しかろう。」
どうやら闇の守護聖はケーキ作りにハマってしまったようだ。
だが味をしめたクラヴィスが、次にどんなケーキを作るのかは
その表情からすると到底保証出来るものではないようだった。
End
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はんぎゃ〜リュミ様というよりクラ様話です〜
(^-^;)ご勘弁ε==========へ
(;^^)/