天使の贈り物

                   水色真珠

 誕生日の朝だった。

リュミエールが目を覚ますと自分のベッドに4人の天使が一緒に眠っていた。

それぞれが、しがみつくようにくっついているので身動きがとれない。

いつ、どうやってやって来たかより、とりあえずそちらの方が問題だった。

起こさないように体を動かさずに観察すると、信じ難い確信があった。

どう見ても4人の天使は神鳥と聖獣の宇宙の女王と補佐官の幼い姿だった。

「みゅ〜」ひとりが身じろぎすると次々と、まあるい瞳が開いた。

クリクリした4対の瞳がリュミエールを見上げる。

「おはようございます。」リュミエールがペコリと頭を下げると

前に流れたせせらぎのような髪をコレットが、おずおずと掴んだ。

日にすかして水色の輝きを楽しんでいるようだ。

「おはよごじゃいまちゅ」ロザリアが、ほんのり頬を染めてお辞儀する。

リモージュはリュミエールの白く輝く柔らかな薄い肌を

夜着をひっぱって引き寄せると、まだ眠そうに顔をこすりつける。

リュミエールの背中にレイチェルがおぶさる。

「まんま〜まんま〜」

リュミエールはニッコリ微笑んだ。

「はい、そうですね。ご飯に致しましょうね。」

リュミエールは手早く着替えると4人の天使を引き連れて寝室を出た。

台所に入りパンをだしサラダを作っていると4人は珍しそうに見ている。

「大人しいですね。みんな、とても良い子なのですね。」

子供にも食べやすいようにクセがなく柔らかい素材で作ったサラダが出来ると

リモージュがタマゴを持ってきた。レイチェルはソーセージが食べたいらしく袋を出してくる。

ハムを出してきたロザリア、ミルクを飲みたそうに指をくわえてみているコレット。

それぞれの仕草が、ますます本人達であることを裏付ける。

サラダと小さなオムレツ、ハムとソーセージという些かヘビーな朝食になってしまったが

とても楽しげな天使たちの様子にリュミエールも微笑まずにはいられなかった。

出仕の時間になり水の館の執事ミシュルがやって来て主が、

幼い天使を引き連れているのを見て目を丸くした。

「いったい、どうなさったんですか?」ごく常識人であるミシェルが、慌てるのに反して

主はニッコリ微笑んで「さあ。」と答えただけで天使連れで出仕していった。

 

当然だが女王たちの姿のない宮殿は大騒ぎになっていた。

オスカーが息を切らせて駆けて来る。

「おい!緊急事態だ。すぐジュリアス様の執務室へ集まれ!」

言うなり駆けて行ってしまう。

長身な彼には小さな天使は目に入らなかったようだ。

テンポが早いオスカーにテンポがかなり遅いリュミエールが話しかけようとした時は

回廊を曲がって姿が見えなくなっていた。

「こちらも緊急事態だと思うのですが…」

誰もいなくなった空間に話しかけても答えが返るわけもなく

しかたなくリュミエールは、そのままジュリアスの執務室に向かった。

 

ノックして入るとジュリアスの声がとんできた。

「おそい!何をしていたのだ!!」

厳しい言い方にいっせいに天使たちが大泣きしだした。

「ふゃ〜ん、おじちゃん怖い〜」

ますます青筋が立ったジュリアスが睨みつけると4人ともベソをかきながら

リュミエールのローブの裾にとりついて影に隠れてしまう。

「リュミエール!その子供達はなんだ?

なぜ出仕するのに子供など連れているのだ?!」

ジュリアスの言葉に皆がリュミエールの足元に注目した。

「あれ?どっかで見たような子だねぇ。」

オリヴィエが言うまでもなく皆その類似性に気がついた。

「あ〜やはり陛下たちですね〜どういうことなんでしょうね〜」

ルヴァが興味深げに腰をかがめて見つめるが答えはルヴァ自身にさえわからない。

とりあえず相手がおっとりとしたリュミエールなので、

今更、なんで早く連絡しないんだ等という

愚問は出なかったが皆の困惑は益々高まるばかりだった。

話し合った末、ルヴァとエルンストが解決方法を見つけるまで

リュミエールがあずかることになり各自、自分の仕事に戻った。

 

執務室でリュミエールが書類を書いているとコレットがこっそり髪を編み始めた。

リモージュは花瓶から花を抜くとコレットを手伝って髪と一緒に編みこみ始める。

ロザリアとレイチェルはしかめっ面をして読めない書類を読んでいるふりをしながら

キレイに積み上げていく。

「お手伝いして下さるのですね。ありがとうございます。」

リュミエールが微笑むと、先ほどの一件以来表情の硬かった4人が

やっとニコニコしだした。

「リュミエール!」書類を持ってきたオリヴィエは入ってくると目を見張った。

天使に囲まれ、白くて小さな花を髪に編みこまれたリュミエールは

女神としか言いようがなかったからだ。

「ねぇ、ねぇ、その子達にやらせてるんだから、私にもやらせてよ。」

ザザッと天使たちが前に立ちふさがってオリヴィエをさえぎる。

「ちょるいは、おあじゅかりいたちまちゅわ。」

ロザリアが手から書類をとると、オリヴィエは部屋から押し出されてしまった。

誰が来ても、同様な状態で午前が終わった。

 

「お昼にいたしましょうか。」

リュミエールが、そう言って4人を連れて出ると

物珍しげに人々が振り返る。

色々と面妖なことがおこる聖地だが、

どうみてもミニサイズの女王と補佐官は異様だった。が、しかし…

「こんにちは、ごきげんよう。」

それでもリュミエールは意に介さず丁寧にひとりひとり挨拶をして通り過ぎる。

天使たちも倣ってペコと頭を下げる。

それはそれは可愛らしく微笑ましい光景で、最初は異様さにたじろいだ人も

思わず振り返って見惚れてしまう。

カルガモ親子の行進を思わせる一行は守護聖専用の食堂についた。

「今日は皆さんとお食事する日なのです。楽しくお食事しましょうね。」

4人がコクコクうなづくとリュミエールは白く繊細な手で扉を開けた。

 

ランディが早くもスプーンとフォークを手に待ち構えている。

ゼフェルが呆れた目で見ているのをマルセルなだめ

ルヴァは本を読んでいる。

オリヴィエはオスカーのサラダにマヨネーズをかけようとし

オスカーはオリヴィエの飲み物に砂糖を入れようとしている。

ジュリアスはクラヴィスを睨みつけ、クラヴィスは目を瞑ったまま無視している。

おおよそ楽しく食事する雰囲気ではない。が、リュミエールが来るだけで

やや和んでくるのは、そのサクリアのせいだけではないようだ。

首を傾げ優しく微笑むと水色の髪が優美な首筋を流れる、

「遅くなって申し訳ありません。」

そう言いながらリュミエールはクッションを重ね天使たちにも座れるようにイスを調節した。

そして、ひとりひとりをイスに座らせて、やっと食事が始まった。

「ふゃ…」

何度クルクル回してもフォークからパスタがスルスルと落ちてしまいコレットが涙目になる。

「大丈夫ですよ。」

代わりにリュミエールがパスタをフォークに巻き取ってコレットの口に入れてやる。

その様子をチラリとロザリアは見て、フォークにキレイに巻き付けたパスタを解いてしまった。

「わたくちも、おちちゃいまちゅわ。」

レイチェルもフォークを投げ出した。

「あたちもー」

長いまま食べていたリモージュは不思議そうな顔をしていたが

皆がかわるがわる口に入れてもらっているのを見て

リュミエールの衣をひっぱった。

「たべてくだちゃい。」

「ありがとうございます。」

リュミエールが微笑んで口をあけるとリモージュはパスタの端を押し込んだ。

そして自分は反対の端をくわえる。

リモージュはリュミエールが驚いている間にちゅるちゅるとパスタを食べていく

だが…、ぷち。

リュミエールの唇にたどり着く前にパスタは切れてしまった。

「みゃ…」

頬を染めていたリモージュは一気に天国から地獄に落とされたように泣き出した。

「うるさい!食事中だぞ静かに出来ないのか?!」

ジュリアスの怒鳴り声に、ますます騒ぎが大きくなる。

「お前の方がうるさい…」クラヴィスの言葉に余計にジュリアスはいきり立ち、

ルヴァがなだめようとするが収まらない。

仕方無しにリュミエールは天使たちを連れて公園へ行った。

吹く風も爽やかで気持ちいい緑溢れる公園で

サンドイッチを買って食べさせると、こちら方が良かったようで

みんなおとなしくハグハグ食べた。

ロザリアがオレンジジュースを飲みながらリュミエールを見上げた。

「ハープききたいでちゅわ。」

他の3人も目をクリクリさせてうなづく。

リュミエールは優しく微笑むと、天使に似合う可愛らしい曲を弾き出した。

天使たちは喜んで歌ったり踊ったりしだした。

その愛らしい光景は多くの人間の心を和ませ、リュミエールも微笑まずにはいられなかった。

やがて、おなかがいっぱいになって、お昼寝しはじめてしまった天使たちだったが

ケープをかけると昼の時間いっぱいリュミエールは子守唄を弾き続けた。

 

午後の執務が始まるとリュミエールは研究院にいった。

データを取りに行ったのだが、入り口でエルンストに止められた。

「今回の件でわかったことがありますのでお話したいのですが。」

リュミエールが案内された部屋にはオスカーとチャーリーがいた。

オスカーはリュミエールと天使たちを見やって説明しだした。

「犯人はチャーリー…というか、陛下たちというか、まったく人騒がせだぜ。

幸せをもたらす天使をプレゼントできる薬とやらをチャーリーから手に入れて

4人で飲んじまったらしい。」

リュミエールは驚いた。

「なぜ、そんなことを?」

オスカーは肩をすくめた。

「今日は、お前の誕生日だろう?」

あ…、リュミエールは口元を押さえて絶句した。

オスカーは頭をかきながらうめいた。

「それが自分が天使になっちまう薬だったとはな。」

「それで、元に戻す方法は?戻るのですか?」

心配して焦るリュミエールをチャーリーが差し招いた。

オスカーは、そっぽをむいている。

「あのな…元にはもどるんや。」

続きはリュミエールの耳に囁いた。

首筋まで桜色に染めてリュミエールはうなづくと天使たちを抱きしめた。

後を向いたオスカーとチャーリーの耳に小さなキスの音が4回すると

天使は元の大きさに戻って眠り込んでいた。

侍女達が4人を連れて行くとオスカーがポンとリュミエールの肩を叩いた。

「お疲れさん、とんでもない誕生日だったな。」

チャーリーも手を合わせる。

「ほんま、えらいすんません。」

だが、リュミエールは柔らかく微笑むと白鳥より優美な首をふった。

「いいえ、色々な出来事ひとつひとつが楽しい一日でした。

本当に天使が幸せをもたらしてくれたのだと思います。」

リュミエールは天使よりも至高の微笑を浮かべ微笑んだ。

4つの一生懸命な想いは確かに届いたのでした。

 

End

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あぁ…ほんのり幸せ?保父さんのようなのに怒らないリュミエール様さすがです♪